NFTの種類と押さえておきたい法律|関連する法律を理解してリスクを回避
コピーし放題のデジタルデータに一点ものの希少性を保証する新技術がNFT(非代替性トークン)です。
アートやファッション業界だけでなく、ゲームやプロスポーツの分野にも広がりながら 急拡大するNFT市場ですが、リスクがある、よく分からないといった人も多いのではないでしょうか。
今回はNFTに関するリスクと法律上の問題を分かりやすく紹介します。
NFTとは

最近NFTという言葉が話題を集めています。
NFTとは「Non-Fungible Token(ノン・ファンジブル・トークン)」の略で、代替可能性のない、つまり世界でたった1つしかないことを証明するデジタルトークン(デジタル証明書)のことです。
デジタルデータはコピーし放題で、本物と複製の見分けがつきません。
本物と複製を区別し、コピー可能なデジタルデータの「原本」に固有の価値を持たせるため、「これが本物です」と、いわばお墨付きを与えられるのがNFTという技術です。
NFT市場は猛スピードで成長しているため、法律の整備が追い付いていないのが現状です。
NFTを発行するとはどういうことなのか、NFTの移転とは何を売買するのか、などが法律上で定まっていないといった問題があります。
もし現状で、NFTをめぐる争いが生じた場合、現行法で適用できそうな条文を解釈して使うことになるため、どの法律が適用できるかを理解しておく必要があります。
NFTの種類

ブロックチェーンを用いて発行されるNFTですが、さまざまな種類があり、法的性質を考えるに当たり、どのような権利や 機能を持っているかなどを個別的に考える必要があります。
NFTと既存の概念との類似性を考えてみましょう。
現行法上でNFTが分類される可能性があるものとして考えられるのは、以下の5つです。
- 暗号資産
- 有価証券
- 前払式支払手段
- 為替取引
- ポイント
暗号資産
暗号資産(資金決済法2条5項)とは、次の3つの要件をすべて満たすもの(1号暗号資産)と、不特定の者を相手に1号暗号資産と相互に交換できる財産的価値を持ち、かつ、2と3の要件を満たすもの(2号暗号資産)に分けられます。
- 代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができること
- 電子機器その他の物に電子的方法により記録された財産的価値で、電子情報処理組織を用いて移転することができること
- 本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産に該当しないこと
NFTは、ビットコインやイーサリアムなどと同様に、ブロックチェーン上で発行されたトークンです。しかし、暗号資産は、代替性トークンと呼ばれ、Aさんが持っている1ビットコインとBさんが持っている! ビットコインは、同じ価値を持っているため交換することができます。
一方、NFTは非代替性トークンで、一つひとつが唯一無二で同じ価値を持っていないため、交換することができません。
さらにNFTを暗号資産として解釈するには、資金決済法の目的に照らし合わせる必要があります。
有価証券
国税庁のHPによると、有価証券とは「財産的価値のある権利を表彰 する証券であって、その権利の移転、行使が証券をもってなされることを要するもの」をいいます。
有価証券に該当するものとして、株券、国債証券、地方債証券、社債券、投資信託の受益証券、約束手形、為替手形、小切手、郵便為替、商品券、各種のプリペイドカードなどがあります。
2020年5月から施行された「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」に基づく金融商品取引法に係る改正法により、「電子記録移転有価証券表示権利等」と「電子記録移転権利」が追加され、ブロックチェーン技術を用いた有価証券を「デジタル証券化」することを認めました。
NFTはブロックチェーン技術を用いたデジタルトークンですが、現状では有価証券に分類されるものはあまり多くないと考えられます。
前払式支払手段
前払式支払手段(資金決済法3条1項)とは、商品券、電子マネー、プリペイドカード、旅行券など、利用者から前払いされた対価をもとに発行される有価証券のことです。
前払式支払手段に該当するためには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
- 金額等の財産的価値が券面に記載されているか、ICチップなどに記録されていること(価値の保存)
- 金額又は数量等に応じた対価を得て発行されるものであること(対価の発行)
- 発行者又は発行者の指定する者に対する代価の弁済のために利用できること(権利行使)
前払式支払手段には、自家製前払式支払手段(例:イオンの商品券)と第三者型前払式支払手段(例:全国百貨店共通商品券)があります。
NFTの法的性質を考えるとき、前払式支払手段の3要件を満たすことができるかが問題となります。
為替取引
為替取引の定義は、金融法上定義されていませんが、判例によると、「顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行することをいう」(最高裁平成13年3月12日) とされています。
精選版日本国語大辞典によると「離れた地域間の債権債務関係を決済するのに為替を用いる契約」としています。
為替は、為替手形や銀行振込、郵便為替、小切手など、現金以外に金銭を決済するものです。
NFTは絶えず価格が変動します。
「隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組み」を構築できないため、為替取引に当たらないと一般的に考えられています。
ポイント
ポイントとは、商品の購入や役務の提供を受けたときに、購入金額などに応じて無償で提供され、次回以降の購入代金に充当することができ、もしくは商品と交換することができるもので、楽天ポイント、dポイント、マイレージポイントなどがあります。
インターネット上の広告の閲覧などと引き換えに発行されるものもあります。
ポイントは通常、商品の購入の際に無償でもらえるものです。
そのため、前述の前払式支払手段の「対価の発行」要件を満たさず、原則として金融規制の対象にはなりませんが、お金を支払い、ポイントを取得した場合は前払式支払手段に含まれ、金融規制の対象となります。
さらに、金融規制の対象外でも、景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法)上の景品類の提供に関する規制を考える必要があります。
NFTに関連する法律

NFTに関連する法律として、以下のものがあります。
- 資金決済法
- 金融商品取引法
- 景品表示法
- 刑法
資金決済法
金融庁によると、資金決済法(正式名称:資金決済に関する法律)とは、情報通信技術の発達や利用者ニーズの多様化などによる資金決済システムをめぐる環境の変化に対応するため、2010年に施行された法律です。
2017年の改正で、暗号資産の規定が追加され、2022年4月からはサーバー型前払式支払手段についての規定が追加されます。
NFTを考える際、暗号資産と前払式支払手段に関する内容が問題となります。
まずNFTが1号暗号資産、もしくは2号暗号資産に該当するかという問題ですが、1号暗号資産は、ビットコインやイーサリアムなど、取引所で扱っているものを対象としています。
よって、NFTは1号資産には該当しません。
さらに、ビットコインのような支払手段として の機能がないことから2号暗号資産にも当たらないと考えられます。
金融商品取引法
金融庁によると、金融商品取引法とは、金融商品取引の公正を図り、投資家の保護や経済の円滑化を目的に1948年 に制定されました。制定時の名称は、証券取引法だったのですが、2007年に法改正され、金融商品取引法に変更されました。
株式、公社債、信託受益権などの有価証券の発行や売買、デリバティブ取引に関する、開示規制、不公正取引規制などを規定しています。
NFT関連では、金融商品取引上の有価証券に該当するかが問題となります。
一般社団法人ブロックチェーンコンテンツ協会によると、協会として現在のところ、基本的には有価証券に該当しないとの立場です。
しかし、2020 年 5 月 1 日施行の改正法における、電子記録移転権利等に該当すると判断された場合、さらなる検討が必要となります。
景品表示法
消費者庁によると、景品表示法とは、商品やサービスの品質、内容、価格などを偽って表示することを厳しく規制するとともに、過大な景品付きの販売を制限し、一般消費者の利益を保護する法律です。
NFTとの関連では、例えば、デジタルトレーディングカードゲームやブロックチェーンゲームで、新規顧客獲得などの目的で、一定の要件を満たしたユーザーにNFT化した武器やキャラクターを無料配布する場合、景品表示法上の「景品」に該当するため、過大な景品に当たらないかを検討する必要があります。
刑法
NFTと刑法の関係で問題となるのは、賭博罪(刑法185条、186条)です。
賭博とは、2人以上が、偶然の勝敗により財物などの得喪を争う行為で、野球賭博や掛けマージャンなどが代表的ですが、最近ブロックチェーンゲームやオンラインゲームが賭博に該当するかが議論されています。
賭博罪の要件として、以下の3要件を満たす必要があります。
- 2人以上の者が参加すること
- 偶然の勝敗により、財物や財産上の利益の得喪を争う行為であること
- 財物や財産上の利益をかけること
例えば、参加費を集めてブロックチェーンゲーム大会を開き、優勝者にNFTを与えるという行為は賭博罪に該当する可能性があります。
まとめ
NFTはインターネット以来の「革命」といわれる画期的な新技術で、NFT市場は急速に拡大しています。
法律が追い付いていない状態で、NFTの法律上の位置づけは解釈で成り立っているのが実情です。
解釈自体が変われば、NFTが規制の対象となるかもしれません。
NFTの法律的な定義については、これからも注意し続けておく必要があるでしょう。