最悪のケースでは訴訟問題も?ダンスの振付の著作権について
近年、YouTubeやTikTokなどの動画投稿サイトでは、所謂「踊ってみた」というダンス動画が人気のコンテンツとなっています。
しかし、「ダンスの振付には著作権が発生するものもある」ということを、しっかりと認識している人はどの程度いるでしょうか?
実は、著作権者から許可を得ずに人前でダンスを披露することで、思わぬトラブルに発展することも考えられます。
この記事では、ダンスの振付の著作権や、人前でダンスを披露する際に気を付けなければならないポイント等についてまとめてみました。
目次
ダンスの振付は該当する?そもそも著作権とは

本題に入る前に、まずは著作権の概要について重要なポイントをまとめておきましょう。まずは、「どういったものが『著作物』として認められるか?」ということと、「誰が『著作権者』になるのか?」ということをしっかりと認識しておく必要があります。
第一に、「著作物」として認められるための要件についてですが、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義されています。(著作権法第2条1項1号)
ここで重要なのは「創作的」という部分と「表現したもの」という部分です。例えば、既存の作品を模写しただけでは「創作性」という要件を満たさないため「著作物」として認められませんし、どんなに素晴らしい小説であっても、頭の中に「アイデア」の状態で留めている状態では「表現した」という要件を満たさないため「著作物」に該当しません。
逆に、要件さえ満たしていれば、幼児が描いた絵であっても立派な「著作物」となります。ちなみに、「ダンスの振付」は10条1項の3号に「舞踏又は無言劇の著作物」として明記されており、立派な「著作物」です。
次に「誰が著作権者となるか」という点についてですが、著作物を創作した人物は、勿論「著作者」としてその著作物について最も大きな権利を持ちます。
ただし、著作物の権利は「創作者」以外にも及ぶ場合があります。
例えば、ベートーベンの「第九」を思い浮かべてください。この楽曲の著作者は、作曲者であるベートーベンです。
しかし、この曲は現代でも多くのオーケストラによって演奏され、CD化等もされています。
この場合、指揮者や演奏者などの「実演家」やCDの発売元の「音楽出版社」にも著作権が発生します。同様に、人気漫画を実写映画化する場合には、脚本家、監督、俳優など多くの人が関わることになり、こういった人々も「著作権者」となっていきます。
このように、1つの著作物に対し、複数の権利者が発生する点も著作権の権利構造が複雑化する要因の一つと言えるでしょう。
さらに著作権には、特許や商標といった他の知的財産権と違い、特別な手続をしなくても「著作物が創作された時点で権利が発生する」という特徴があります。
「日々無数の著作物・著作権者が誕生している」という状態になるため、「知らない間に権利侵害をしてしまっていた」ということが起こりやすいのです。
許可が不要な場合も?ダンスの著作権が発生する条件

上述のとおり、ダンスの振付は著作物の対象です。
しかし、模写した絵画に著作権が発生しないように、ダンスの振付であっても著作権が発生しないケースや、著作権は発生するが、著作権者に許諾を得なくても自由に使用できるケースもあります。
ダンスの振付に著作権が発生するケース
「殆どの音楽や絵画に著作権が発生する」ということと同様、殆どの振付にも著作権が発生すると考えた方がよいでしょう。
著作権が発生しているものを著作者に無断で使用すると「著作権法違反」となるため、他人が考案したダンスの振付をそのまま真似して使用する場合は、「著作者に許諾を得なければならない」と考える必要があります。
つまり、YouTube等に「踊ってみた」系の動画をアップロードする際も、本来は振付の著作者に許諾を取るべきなのです。
インターネット上での配信以外にも、イベント等で大勢の前でダンスを披露する際なども著作者への許諾が必要となります。
許諾を得ずにダンスの振付を披露することにより、最悪のケースでは訴訟に発展することもありますので、十分な注意が必要です。
許諾を得ずに振付を使用できるケース
一方、著作権の発生している振付であっても、著作者に許可を得なくても使用できるケースがあります。その判断基準は、大きく分けて2つあります。
1つ目は、「『私的利用』にあたるかどうか」という点です。個人や家族などの少人数間で楽しむためであれば、著作権が発生していえる著作物であっても自由に使うことができます。
2つ目は、「非営利目的での使用か」という点です。公衆の前で踊る場合であっても、文化祭やボランティアイベント等で披露する場合は、権利者に許諾を得ずに使用することが可能となっています。
ただ、「非営利目的か否か」の判断は難しい場合も多いでしょう。例えば、無料のイベントであっても、ショッピングモール内で実施される場合、結果的にショッピングモールの収益増に繋がる可能性が高いため「非営利」と言えるかどうかは微妙です。
同様に考えると、YouTubeへの動画投稿も「非営利」と解釈すれば著作者への許諾は不要と考えることもできるでしょう。ただ、動画に広告が付いた場合などは「非営利」と解釈されるかは微妙になってきます。
更に、元々の振付を参考にして自分でアレンジを加えたものを披露する場合や、振付の一部のみを使用する場合なども著作者への許諾が不要となる可能性があります。
しかし、こういった場合も、振付を使用する側が自分の判断で「許諾不要」と判断するのは危険です。
ダンスの振付に著作権が発生しないケース
音楽や絵画等の著作権を争う裁判に比べ、ダンスの振付の著作権が争われた裁判はかなり少ないのが現状です。
フラダンスや日本舞踊等、様々なジャンルのダンスの振付について、ダンスの著作権が認められた裁判がある一方、ダンスの振付に著作権が認められなかった例もあります。
2014年に起きた、通称「Shall we ダンス?」事件です。この裁判では、社交ダンスの振付について「既存のステップの『組み合わせ』で構成されており、独創性を備えていない」という理由で著作権が認められませんでした。
著作権が認められない振付については勿論自由に使用することができますが、その判断を素人が独自で行うべきではありません。
著作隣接権ってなに?振付師とダンサーの著作権の違い

ダンスの振付の著作権は、当然ながら振付を考案した振付師に与えられます。
一方、実際にダンスを踊る「ダンサー」にも著作権が発生します。これは、音楽で例えると、作曲家だけでなく、歌手や演奏者にも著作権が発生するのと同じです。
振付師や作曲に発生する「著作権」と区別するため、ダンサーや歌手に発生する権利は「著作隣接権」と呼ばれます。
著作隣接権は著作権に比べると権利範囲も限定されており、権限も著作者に比べて弱いものですが、権利が発生していることに変わりはありません。
例えば、プロのダンサーのダンスの映像をインターネットで配信する場合などは、振付師だけでなく、ダンサーの許可も取る必要があるのです。
ダンスの振付には著作権があることをしっかり意識しておこう

ダンスの振付にも著作権は発生します。
近年はAIを活用して、動画サイトなどにアップされた動画から、特定のダンスの振付に関するものを検索するソフトも開発されています。
こういったツールを使うことで、ダンスの振付の著作者は、自分の著作権を無断で使用している人物を見つけやすくなっています。
音楽や画像の著作権に比べると、まだまだダンスの振付の著作権に関する訴訟事例は少ないですが、多くの人の前で踊ったり、SNS等にダンスの動画をアップロードしたりする際は、著作権の問題に発展するリスクがあることに注意し、振付師等の著作者に許諾を得るなど、正しいルールを守るようにしましょう。